もくじ
日本語テクストを観察する
ちょうど原作が生み出された時代、1980年代の積極的な日本企業の海外進出のイメージが強く反映され、本作では日本企業が登場する。もし現在の世界経済の潮流を背景としたストーリーであったなら、企業の役回りは中国企業に代わっていたかもしれない。
一昔前のハリウッド映画の日本の描写というのは、戦前の欧米人が思い描く日本人のイメージが付き纏っていた。いわく目が細く背が低く眼鏡をかけているステレオタイプなアジアの人間たち。もしくはサムライと刀。もちろん、サイバーパンク2077で登場する日本人たちも似たようなイメージを持っているが、現代の日本像に近い表現が見られる。
本作では日本文化に忠実な表現をしている。そういう意味では面白みに欠けるところもあるのだが、海外のフィルタを通した結果、デフォルメの少ない日本のイメージが表現されているということは、日本人としては好意的に受け取ることができる。
オープンワールドと現代のナイトライフというキーワードを持った日本のゲームと言えば、「龍が如く」を思い浮かべるだろうか。本作は、捉えようによっては「龍が如く」のハリウッド版リメイクのようにも見えるが、アメリカのゲームメイカーがリメイクした場合はこのような作品には決してならないだろうなと思う。
では、実際にゲームの中で具体的に登場する日本というイメージすなわち日本語テクストというのは何か。一番分かりやすいのが都市の中の看板・サインである。ゲームプレイ(ゲーム実況の映像)からキャプチャした画像を以下に例示してみたい。ピンクの枠線は後から私が追加したものである。
特徴的なのは字体の大きさが英字のサインより若干大きいこと、つまり本ゲームに出現する日本語のサインは文字のみのものが多い。これは実際の東京のサインのイメージに近い。ゲーム制作者がどのようにして東京のサインを調査したのかわからないが、今の時代、インターネットでリアルな風景が確認できるので、それを忠実に再現しているのではないだろうか。
ただし、「24時間営業」や「空室有り」などは明らかにサイズ感が異質であるし、本来、店名を掲げるような正面の位置にサインが設置されている。客観的に判断すれば、サインの位置と意味のつながりまでは日本のサインを理解できなかったということだが、つまり日本語のサインのデザインを視覚的に理解はしたが、サインが意味する意図までは掘り下げなかったということになるのだろう。
次の画像に見られる「HOテル」という単語は現代日本語としては間違っているかもしれないが、アルファベットとカタカナの組み合わせがとても新鮮である。これはこれでゲーム内だけではなく、新しい日本語としてありそうな気がする。これまで学んできた日本語というのは、原則、単語内に種類の違う文字が混在することはなかった。例えば、経験上、同一の単語でひらがなとカタカナが混在するような単語(ラーメン屋など単語と単語の組み合わせはある。)さえなかったはずである。
このゲームではその原則を簡単に打ち破っている。ちょっと「HOテル」以外に考えてみたが、如何だろうか。「MAンガ」、「A二メ」、「TOイレ」・・・。まあ、言語としての実用化は難しいかもしれないが、表現としては十分ありだろう。
他に日本語テクストとしてゲームストーリーに登場する日本人キャラクターの存在がある。主なキャラクターだけでも以下に挙げることができる。主人公と敵対する企業が日本企業なので当然といえば当然なのだが、海外のゲームメーカーによって制作されたゲームの中にこれだけの日本人キャラクターが出てくるゲームを私は見たことがない。
- ワカコ・オカダ
ジャパンタウンのフィクサー、関西弁を話す。 - 小島秀夫
紺碧プラザのバーラウンジにゲスト出演している。 - サブロー・アラサカ
アラサカ社の社長。 - ゴロウ・タケムラ
サブロー・アラサカの側近、千葉11区のスラム出身。 - ヨリノブ・アラサカ
サブロー・アラサカの息子。 - ハナコ・アラサカ
サブローアラサカの娘。 - サンダユウ・オダ
ハナコ・アラサカの側近。 - マイコ・マエダ
クラウド支配人。