「ホモ・ルーデンス」ブックレビュー

Homo Ludens - Book Review

Posted by 51n1 on 18 Oct, 2022

もくじ

基本データ

本書要約

本書は1938年にホイジンガというオランダの歴史学者が彼の研究の集大成として「遊び」について真面目に論じた一冊となります。「ホモ・ルーデンス」とはラテン語で遊ぶ人という意味です。遊びと人間の文化の関係や遊びの本質について歴史学と民俗学と言語学を総合して丁寧に論じています。

印象に残った文章

遊びは文化より古い。

遊びは仕事ではない。

繰り返されるということが遊びの本質的特徴の一つだ。

遊びは秩序を創造する。遊びイコール秩序である。

すべての遊びがそれぞれの規則をもっている。

遊びはあらゆる文化に先行して存在している。

日本の生活理想のたぐいまれな真面目さは、実は、いっさいが遊びにすぎないという仮構を裏返しした仮面の姿である。

遊びに対立するのは真面目であり、特別な意味の時は仕事(werk)がそれにあたる。

遊びと真面目の限界がはっきり定めがたい

模倣者はそれすなわち芸術家であり、作曲家であれ、演奏家であれ、その点にかわりはない。

模倣再現(ミメーシス)は彼らにとって遊びであって真面目なことではないのだ。

文化はその起源の段階においては遊ばれていた。

(19世紀以降)ほとんどあらゆる文化現象において遊びの要素が著しく背景に後退したことが確かめられる。(丸括弧筆者)

近代文化はもはやほとんど「遊ばれ」てはいない。

真の文化はある程度、遊びの内容をもたなくては成り立ちえない。

読書感想文

本書を読むきっかけとなったのは「 「プレイ・マターズ」」です。こちらは現代社会における遊びの哲学について論じた本だったわけですが、本書はその古典となるような論考と言えます。

まず重要なことは文化の始めはすべて遊びだったということです。その遊びの中に真面目さが取り込まれていき文化になったということです。ただしホイジンガは遊びと真面目を明確に区別する境界線はないと言っています。そのため、文化は遊びの要素と真面目な要素それぞれのバランスが重要だというのが僕の見立てです。

本書内の解説で示されている遊びの5つの形式的特徴をここで引用しておきます。

  1. 自由な行為である。
  2. 仮構の世界であり、利益を度外視し、純生物世界より一段と高級である。
  3. 時間的、空間的に限定されている。
  4. 規則をもつ。それを守る点では真面目で真剣だ。
  5. 秘密をもち、ありきたりの世界とは別物である。

これはまさしく現代のビデオゲームの世界の定義と言っても全くおかしくないと思いますが、ここではあまり深くは突っ込まないでおこうと思います。5つの特徴を見ているとなんとなく遊びとは何かというのが分かるような気がします。古代ローマ人の人生の目的というのは労働や仕事を得ることではなくこの遊びの時間を確保することだったということです。人生を豊かにするのはどちらかと問われれば自明の理でしょう。

前半から中盤にかけて主に古典文学や古代の古典書/古文書、または、世界の各地域の未開民族の文化や伝承から引用し、細則を定義しながら遊びの文化論を展開していきます。少しですが、日本の俳諧・俳句も例として挙げられています。個人的な主観としてこの文化人類学的な論考の流れが読んでいてとても気持ちよかったです。日本語の訳文がとてもすばらしかったことも影響しているかもしれません。

繰り返しになりますが、ホイジンガはあらゆる文化活動は遊びから発展したと主張しています。また、遊びと真面目なことの境界はとても不安定な状態であると言っています。僕は常々、どんな仕事も遊びの精神が重要だと考えているのですが、本書はその主張を裏付けてくれる証跡となりうるものです。だから僕にとって本書の存在はとても貴重なものです。大ぴらに仕事は遊びの要素が必要ですよと言えるわけです。

ホイジンガは全体的な傾向として彼が生きていた20世紀の初頭は遊びの要素が失われていると感じていたと思います。そのため前時代までに創造された遊びの要素を現代の時代で取り戻すことができるのかという命題を抱え本書を作ったのでしょう。

遊びというテーマそのものを考えても本書はとても難しい本だと思います。ホイジンガのこの論考は新しい文化の営みの本質を考えるために何かとても参考になるのではないかと考えています。その点、個人的にとても良い本だと思います。

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