もくじ
基本データ
マンガ
- 書名: いちげき(全七巻)
- 著者:松本 次郎
- 原作:永井 義男
- 出版社:リイド社
- 第一巻発売日:2016年12月6日
- 第七巻(最終巻)発売日:2021年3月9日
小説(原作)
- 書名:新装電子版 幕末一撃必殺隊
- 著者:永井 義男
- 出版社:リイド社
- 発売日:2017年5月12日
本書概要
「いちげき」は単行本で全七巻の漫画であり、著者である松本次郎はあの狂気の漫画「フリージア」の作者です。原作は小説の「幕末一撃必殺隊」です。
マンガと原作のストーリーは異なる部分があり、登場人物の設定が違うところがありますが、マンガには原作にない松本次郎ならではの残虐性や人間の闇の部分が表現されています。小説は時代背景からきちんとと説明されており、幕末から維新の歴史とともに一撃必殺隊の誕生から終わりまでを読むことができます。
本作は旧幕府派と討幕派との戦いが激しさを増す江戸幕末を舞台にした作品です。見どころは、農民が侍に成り上がり、それまで目の上の存在であった武士を刀で成敗するというところでしょう。
印象に残った文章
【マンガ「いちげき」から】
- 武士たればこそ 人として志を高く持たなければならないのです
侍の本懐は主君に仕え仕えその命を果たすこと - つまりゲリラ戦法だよ 西欧の戦術方法だ 平民に武器を持たせた非正規の軍隊のことだよ
- それでサムライらしゅう腹を切れ 武士の情けじゃ
- 予測するのではない 敵の殺意から知るのだ つまりは熟練者同士の戦いはまさに殺意の探り合いということになる
- 生き残りたければな… 刀を捨てろ
これからの戦にはもはや刀は不用だ 戦のやり方が根本的に変わるからだ
これからは侍も百姓もない…… 身分などというものがなくなるのだ - 明治二年 新政府樹立 士農工商から成る身分制度はここに撤廃される
【小説「幕末一撃必殺隊」から】
- 日本刀が意外ともろいということです
斬り合いで、いとも簡単に折れたり、曲がったりするのです。 - 近代戦では鉄砲の質と量が勝敗を決めること、刀や剣術はもはや無用の長物であることを知っていた。
- 農民も刀さえ持てば、刀を持った武士に負けることはない
- 大事なのは、一撃必殺の信念だ
読書感想文
幕末江戸郊外の風景
相撲寺と呼ばれた善照寺で選抜試験に合格した丑五郎、市造、米吉の3名の出身は、東一之江村、上小岩村、鹿骨村でした。現在の東京都江戸川区周辺の地域ですが、明治の頃、東京府南葛飾郡にかつて存在した村々で、農家・田畑の多い地域で農民が多く暮らし、まだ都市化されていない地域でした。
一撃必殺隊の戦い方と訓練内容
当初、二週間の即席の訓練メニューだったところを、さらに六日の訓練期間に短縮し、防御術の訓練は省かれ、基本の攻撃術と最低限必要な戦術のみの訓練となりました。
- 基本攻撃術
- 両手正面斬撃:其ノ場斬撃、数歩前進斬撃、疾走斬撃
- 両手刺突:其ノ場刺突、数歩前進刺突、疾走刺突
- 両手斜メ斬撃:其ノ場斬撃、数歩前進斬撃、疾走斬撃
- 基本戦術訓練
- 仮標斬突:斬り、突く
- 不整地連続突破仮標斬突
- 夜間剣術
サムライの剣術・戦術として必要とされるような居合、抜き打ち、抜刀術などの類のものは一撃必殺隊の訓練内容から除外されていました。一撃必殺隊は奇襲を主とする農民ゲリラとして活用することを考えていたようなので、ゲリラ隊を育成するのに適った訓練プログラムにしたということだと思います。
マンガと小説を読んで
本書を通して幕末の歴史の一面を知り、さらに知りたいと思いました。正直言ってこれまで幕末から明治維新の時代の歴史についてはあまり興味がありませんでしたが、近代日本の礎になる時代であり、その後の太平洋戦争の敗戦と戦後の復興につながっていく歴史の起点となる時代について非常に興味を持ちました。
幕末というのは意外に大昔というわけではなく、西暦1870年前後で、たかだか150年前のことです。つい最近まで、武士が帯刀し丁髷を結っていたのだと思うととても面白いです。小説は時代背景をより描写しているので一撃必殺隊の時代背景を知るには小説の方がわかりやすいと思います。